電話の相手は、病院だった。

メソ『はい、メソメソです』
病院『こんばんわ、○○病院です。夜分に申し訳ありません!すぐ、入院病棟へ来ていただけますか!?酸素濃度が低くて、今酸素吸引機つけている状態なんです。お父様にはすでにご連絡済みです。どうか、気を付けてきてください!!』
メソ『・・・・っ、はい!わかりました、すぐ向かいます!!』


電話を切ってから、弟から不在着信が3度入っていた。
病院との通話中に、かけていたのだろう。
ラインも入っていたので目を通すと、、、

弟『ねえちゃん、すぐ来て!!お母さんの病室***号室やから!お父さんと二人、今向かってるから!!』

私は『すぐいく』と短く返信し、
旦那に簡単に事の経緯を説明し、一緒に病院へ向かった。
迷惑駐車の白プリのことなんて、どうでもよくなった。
それよりも、母が心配でたまらなかった。
が、焦りはあるものの・・・不思議と涙は出なかった。

駐車場からダッシュ、夜間救急出入り口へ到着。
守衛さんが私たちに問いかける。

守衛『こんばんわ。行先はどちらですか?』
メソ『あのっ、無菌室に、、、酸素が、あ、母の娘で・・・今、電話・・・ご、5Fへ・・・』


落ち着いて話せないことを察したのか、守衛さんはすぐ通してくれた。
エレベーターへ乗り、病棟へ向かう。

5Fに到着すると、弟がエレベーター前で待っていてくれた。
そして、病室まで案内してくれた。
無菌室ではなく、違う病室へ移動したようだった。

病室へ入ると、ほんとに・・・・
ドラマで見るような、光景っていうか・・・
先生&看護師さん数名がベッド周りに立っていて、
傍らには泣き崩れている父の姿。
母の口元には緑色の酸素マスクが着用され、
顔がとても赤く、呼吸が荒い。

ベッド横には、心拍数や脈拍がわかるような機械がセットされ、

『ピッ・・・ピッ・・・ピッ・・・・』

静かに、不気味に鳴り響いていた。

母は私に気付いたようで、顔をこちらに向けた。

母『メソメソ・・・旅行・・・・楽しかった・・・??』
メソ『うんうん。身代わり地蔵様に出会えたし、、、ちゃんと、おみくじ引いて・・・』
母『熱上がっちゃって・・・疲れてるのに、ごめんねぇ・・・』
メソ『そんなことないよ。おかーさん、今息苦しいんだから安静にしてようよ・・・』
母『・・・・(にっこり微笑みながら、目を瞑った)』

先生が、静かにクチをひらく。

先生『結論から申し上げますと、お母様は肺炎を患っています。レントゲンを撮りました。左と右の肺は、正常だと黒いのですが、すべて真っ白になっています。肺炎になると、自発呼吸が非常に難しくなるため、今は応急処置として酸素吸引機で呼吸のサポートを施しているのですが、こちらの病棟ではこの処置で精一杯な状況です。そこで、ご家族の方に同意をいただきたいのですが、これからお母様の呼吸を24時間体制で完全なるサポートするため、ICU(集中治療部)でクチから管を入れ、全身麻酔をし、心拍数&血圧&酸素濃度が落ち着くまで救命措置をしたいのです。クチから管を入れることで会話が出来なくなりますし、全身麻酔をかけるため、今までのように意思の疎通もできなくなりますが・・・よろしいですか?』

※写真は母ではありませんが、先生の説明はこのような状態の事を指します※
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父『・・・お願いします、妻を助けてください・・・・!!』
メソ『先生、容態が安定すれば意識が覚醒し、管が取れれば会話できるようになりますよね??』
先生『はい、もちろんです。麻酔を入れる理由は、管を入れることによって起こる激痛を和らげるためなんです。意識があるままだと、暴れてしまって自傷行為になる恐れもあるのです。まずは酸素供給をしないと、全身に血液がまわらなくなりますので、一番最善な処置を提案しております。』
弟『・・・・・・っ(むせび泣く)』
メソ『了解しました。今はまず母が呼吸しやすいよう、全力でお願いします!!』
先生『わかりました。それでは集中治療部へ連絡をとり、移動の準備を行いますね。』


先生たちがバタバタと病室から出ていき、
室内には、私たちだけになった。

母『・・・・メソメソ・・・・ケータイ、充電しといて・・・・』
メソ『あっ・・・、うん。わかった。充電しとく』
母『らいん・・・見れてないから・・・見たい・・・・』
メソ『見せてあげたいけど、少しでも動くと苦しくなるから、酸素が落ち着いたら一緒に見ようね。』
母『ケータイ・・・ケータイ持ちたい・・・・電話、したい・・・・』

奄美の姉や妹、甥っ子や姪っ子、かつての職場の仲間たちや数多くいる友人たちと、連絡をとりたかったようだ。

父『おい、安静にせなあかんねんて。。。頼むから、もう喋るな・・・・』

父の、精いっぱいの言葉。
母を思いやっての、言葉。
でも、私は母に対して『しゃべるな』とは言ってほしくなかった。

集中治療部へ入ったら、おかーさんの声がしばらく聞こえなくなる。
でも、父の言う事も正論である。
喋れば喋るほど、動けば動くほど、酸素濃度は低下していくのだから。

30分ぐらい経っただろうか。
先生たちが、戻ってきた。

先生『お待たせして本当に申し訳ありません。これより移動を行いますので、貴重品などはすべて持っていただき、ご家族様は4F集中治療部の入り口前へ待機お願いします』
母『・・・ケータイ・・・持っていきたいんですけど・・・テレビ台の上にあるから・・・』
看護師『ケータイは持ってはいることができないんです。』
母『お願い・・・・電話させて・・・・お願いしま・・・・』


ベッドで移動しながら、懸命に看護師さんや先生に
消え入りそうな声で訴えかける母。
連れていかれるときの母の寂しそうな表情が、目に焼き付いて離れない。

おかーさん。
集中治療部から出てきたら、
元の病室に戻ってきたら、
退院したら、みんなと電話いっぱいしよう。
仲間に会いに行こう。
たくさん美味しいもの食べよう。
一緒に、仕事しよう。

今は、肺炎を治すことが一番大事。

しぃま。
おじーちゃん。
奄美のおばあちゃん。
そして、無事に巡り合えた身代わり地蔵様。

どうか、お願いします。

母を、助けてください。守ってください。どうか、お願いします・・!!


つづく。